歯科医院の業務改善事例|「スタッフから意見が出ない」状態から現場主体のPDCAが動き始めるまで

「業務改善についてスタッフにも考えてほしい。でも、ミーティングをしてもなかなか意見が出てこない。」

これは、歯科医院の院長先生からよく聞く悩みの一つです。

今回は、実際の歯科医院で行った支援をもとに、 スタッフからほとんど発言が出ない状態から、現場主体の改善PDCAが動き始めるまで のプロセスをご紹介します。

【事例掲載について】
本事例は実際の支援内容をもとにしていますが、守秘義務に配慮し、 医院名・地域・院長名・スタッフ名・実施日・参加人数・詳細な数値など、 特定につながる情報は掲載していません。 また、公開に必要のない情報については一部加工・一般化しています。
にこまる院長

にこまる院長

「スタッフ主体で業務改善」と言っても、 「何か意見ありますか?」と聞いても、 なかなか話してくれないんですよね……。

最初から「改善案を出してください」とは聞かない

今回の支援でも、初回から活発に意見が出たわけではありません。

他院の業務改善事例を紹介して、 「自分たちの医院ではどうでしょうか?」 と問いかけても、最初は慎重な反応でした。

これは決して珍しいことではありません。

普段から会議で意見を出す習慣がない職場で、 突然全員の前で 「困っていることを言ってください」 と言われても、心理的なハードルがあります。

そこで行ったのが「話す前に、まず書く」ことです。

受付・会計、患者対応、診療アシスト、新人教育、 院内コミュニケーション、職場の雰囲気、時間効率など、 日常業務について各自で気づきを書き出してもらいました。

歯科医院スタッフ

スタッフ

「いきなり発言するより、 まず自分で書いてみる方が考えやすいかも。」

すると、少しずつ状況が変わりました。

書いた内容をもとに話すことで発言のハードルが下がり、 研修途中からは笑いも出始め、 日頃感じている困りごとや改善アイデアが少しずつ出てきました。

斎藤さん
斎藤さんの解説

ここは、とても大事なところです。

発言が少ないからといって、スタッフに意見がないとは限りません。

いきなり「意見を言ってください」と求めるのではなく、 一人で考える時間をつくり、まず書いてもらう。

考える時間と、安心して言葉にできる順番を設計する。 これだけでも、スタッフの参加しやすさは大きく変わります。

初回の目的は、立派な改善計画を完成させることではありません。
「スタッフが安心して、仕事上の困りごとを言葉にできる状態をつくること」 から始めました。

現場から出てきたテーマを、一つに絞る

話し合いでは複数の改善テーマが出ました。

その中でも特に現場の関心が高く、 医院経営にも影響が大きいテーマとして浮かび上がったのが、 予約キャンセルへの対応でした。

ここで大切なのは、 「ではキャンセルを減らしましょう」 と、その場の話だけで終わらせなかったことです。

次に医院側で、 実際のキャンセル状況について一定期間記録してもらいました。

「多い気がする」から、実際の数字を見る

次回の話し合いでは、 感覚ではなく、医院で集めた実データを材料にしました。

すると、一口にキャンセルと言っても、 内容がかなり違うことが分かってきました。

例えば、体調不良、急用、仕事などは、 医院側だけの努力ですべて防ぐことは困難です。

つまり、 「キャンセルをゼロにする」という目標そのものが適切とは限らない のです。

にこまる院長

にこまる院長

確かに「キャンセルをなくそう!」だけでは、 スタッフに頑張れと言っているだけになってしまいますね。

問題を3つに分解しました

そこで、予約キャンセルの問題を、 次の3つに分けて考えることにしました。

① 予防 忘れていたなど、医院側の工夫で防げる可能性があるキャンセルを少し減らす。
② 空き枠活用 急なキャンセルが出た場合に、空いた予約枠をどう活用するか考える。
③ 再予約 キャンセルした患者さんを次の予約につなげ、治療中断をできるだけ防ぐ。

こうすると、 漠然とした「キャンセルが多い」という問題から、

「自分たちが改善できる部分はどこだろう?」

という具体的な話へ変わります。

斎藤さん
斎藤さんの解説

私が業務改善で重視しているのは、 大きな問題を、そのまま現場に渡さないことです。

「キャンセルを減らしましょう」では、大きすぎます。

ところが、 「予防する」 「空き枠を活用する」 「再予約につなげる」 と分けると、急に考えやすくなります。

問題を小さく分解することで、 スタッフも 「自分たちなら何ができるか」 を考えられるようになります。

誰が悪いかではなく、仕組みのどこを変えるか

データを整理する過程では、 記録方法についても改善点が見えてきました。

例えば、 「キャンセル理由」と 「連絡があったかどうか」が混在すると、 後で集計したときに状況を正確に把握しにくくなります。

このような時、 「誰が間違えたのか」 を探すことに意味はありません。

人を責めるのではなく、記録の仕組みを変える。

例えば記録項目を、

  • キャンセル理由
  • 事前・当日の連絡の有無
  • 再予約につながったか
  • 空いた枠を別の患者さんで活用できたか

などに分ければ、 次回から改善効果を確認しやすくなります。

斎藤さん
斎藤さんの解説

業務改善で 「誰が間違えたのか」 を探し始めると、 スタッフは次から問題を出しにくくなります。

私が見るのは、人より先に、 「そのミスや曖昧さが起こりやすい仕組みになっていないか」 です。

人を注意して終わるより、 記録方法や手順を変える。

その方が、 再現性のある改善になります。

大改革ではなく「来月、一つだけ良くする」

今回の医院では、大掛かりな制度改革は行いませんでした。

基本となる流れは非常にシンプルです。

1
数字を見る
現場で実際に何が起きているか確認する。
2
一つ試す
現場で無理なくできる改善策を一つ実行する。
3
もう一度数字を見る
実際に何が変わったか確認する。
4
少し修正する
続けるか、別の方法を試すか話し合う。
数字を見る → 一つ試す → また数字を見る → 少し変える
斎藤さん
斎藤さんの解説

私は、立派な改善計画を作ることより、 「来月、一つだけ良くする」 ことを重視しています。

数字を見る。
一つ試す。
また数字を見る。
少し直す。

この小さな循環を繰り返していけば、 外部のコンサルタントが毎回答えを出さなくても、 医院自身で改善できる力 が育っていきます。

「目標未達=失敗」にはしない

業務改善で非常に大切なのが、 数字をスタッフを責める道具にしないことです。

目標に届かなかったとしても、

「なぜできなかった?」

ではなく、

「この方法はやりにくかった?」
「どう変えれば続けられそう?」

と考えます。

PDCAは、 完璧な計画を守り抜くためのものではありません。

実際にやってみた結果から、 やり方を少しずつ修正するための仕組み です。

歯科医院スタッフ

スタッフ

「できなかったら怒られる」ではなく、 「どうしたらやりやすいかを考える」なら、 意見も出しやすいですね。

外部研修だけで終わらせない

この支援でもう一つ重視したのが、 外部の専門家がいないと改善できない状態にしないことです。

院内にも、改善を前に進める役割を置きました。

ただし、その人が改善活動をすべて背負うわけではありません。

役割は、

  • 数字を見る
  • スタッフの意見を集める
  • 進捗を確認する
  • 次の話し合いにつなげる
最終的な目標は「医院の中で改善が回る状態」をつくること。

外部支援は答えを与え続けることではなく、 現場自身が考え、実践し、振り返れる仕組みをつくるために使います。

この事例で起きた変化

  • 最初は発言が少なかったスタッフが、 業務について自分たちの言葉で意見を出し始めた
  • 「何となく多い」という感覚論から、 実際のデータを見る習慣へ変わった
  • 大きな問題を、 現場で改善できる小さなテーマへ分解できた
  • 院長だけが改善を考える状態から、 スタッフと一緒に考える状態へ動き始めた
  • 一度きりの研修ではなく、 継続的にPDCAを回す仕組みができ始めた
斎藤さん
斎藤さんの解説

この事例で、私が最も大切だと思っているのは、 キャンセル件数そのものではありません。

スタッフが、 「自分たちの仕事を、自分たちで少し良くしていく」 という経験を始めたことです。

教えてもらったことを できるようになるだけが人材育成ではありません。

自分で考え、試し、振り返り、次を考えられる人を育てる。

私は、そこまでを人材育成だと考えています。

人材育成は「教えること」だけではない

人材育成というと、 新人に仕事を教えることや、 研修を実施することをイメージしがちです。

しかし、私たちはそれだけではないと考えています。

日々の仕事について、

自分で考える。
意見を出す。
小さく試す。
結果を見る。
次の方法を考える。

この経験そのものが、人を育てます。

大切なのは、 立派な制度を一度に完成させることではありません。

現場の人が自分たちで考え、 小さく試し、振り返る習慣をつくること。

今回の歯科医院でも、その第一歩が始まりました。

歯科医院研究部会

ライドオン人材育成研究会「歯科医院研究部会」では、 新人教育、スキルマップ、面談、業務改善、 スタッフ育成などについて、 実際の現場で使える方法を研究しています。

私たちが重視するのは、 抽象的な人材育成論ではありません。

「明日から医院で何をするか」 まで具体化することです。

今後も個人や医院を特定できない形で実践事例を紹介し、 現場で使える教材・実践ツールも公開していきます。

歯科医院研究部会を見る
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この記事を書いた人

斎藤達也のアバター 斎藤達也 ライドオン人材育成研究会 代表/人材育成コンサルタント・行政書士

ライドオン人材育成研究会代表。人材育成コンサルタント・行政書士。歯科医院、介護・障がい福祉事業所などの小規模組織を中心に、人材育成、面談設計、スキルの見える化、業務改善を支援しています。「人材育成を一部の優秀な人に依存させず、現場で継続できる仕組みにする」ことをテーマに、実践と研究を行っています。

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